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「冬の散歩道」

2023.02.16更新

 今年の冬はそうとうに寒いと思う。ユニクロで購入したあったかインナー。一枚厚着をしたつもりでも朝夕など深刻な冷えを感じる。ラニーニャ現象? ただ気象数字的には「東京最高最低気温・平年並みの日=40%」ということで、世界、地球に大きな異変はないらしい。記者自身、ごく普通に年齢相応の体力低下と納得した。まあしかし、無理をせず勝手気まま、近場をぶらぶらほっつき歩くのは依然楽しい。散歩欲 と野良犬体質。何よりひとまず元気…にあらためて感謝した。

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 新年明けて1月中旬、「マンガ家・つげ義春と調布展」に出かけた。市民文化会館たづくりホール。記者40年来調布市民で、つげさんも長く調布に住まれている。地元親近感も手伝うのかどうか、会場ギャラリーは想像以上に熱気があった。男女ほぼ半々、年齢層はやや高めで静かな熱気。展示された原画の前で立ち尽くす(?)人が多く、列がなかなか進まない。「ねじ式」「ゲンセンカン主人」はシュールであり、「紅い花」「チーコ」は幻想的なやさしさにあふれている。そして「無能の人」「石を売る」は、ため息という言葉がやはり似合う。

 「調布巡礼」と題されたタイトル、3分ほどのビデオが流されていた。調布駅前にある「百店街」、野川沿い「祇園寺」「八幡神社」などを、85歳・白髪のつげさんが、とぼとぼという感じで歩いている。ときどきくわえ煙草。どれも記者近所だから、理屈なしでしみじみする。さらに「京王閣競輪場」「多摩川住宅」「市民プール」。現存なのに懐かしい、不思議な感覚。つげさんは、ひとことでいえば変人奇人。気弱で自己主張がない(できない)アウトロー、ニヒリスト…世間的にはそんなキャラクターになるのだろう。ともあれ記者は、昔も今もかなりコアなファンである。

 
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 その足で、調布イオンシネマ。映画「ドリームホース」を観た。舞台は英ウェールズ、平和で安定、しかし単調、退屈な毎日を送る中年夫婦が、ふとしたきっかけから競走馬を持つ、育てる…というストーリー。町の仲間、知り合い、ご近所同士で共同馬主になる。日本のダイナーズとかシルクとかとは、発想、成り立ちが大きく違う。 出資者の集まりではなく、もともとが友人、知人。ともあれドリームアライアンスと名づけられたその馬は、デビューから抜群の素質、才能をみせ、一流への道を駆け昇っていく。以後レース中大きな故障(腱断裂)など、さまざま逆境はあったものの、それを乗り越え、2009年、最高峰レース(ウェルシュナショナル=障害30ハロン)を見事に勝つ。

 ハッピーエンド、ありふれた予定調和といえば確かにそう。ただこれはフィクションではなく実話で、現実に公式競馬サイト、海外名馬欄にその名前が載っていた(国際GⅡ馬)。ごくストレートに元気が出る、ワクワクする映画…としておススメできる。画像ドリームアライアンス(影武者?)は輝くような栗毛、テンポイントに似ている…という書き込みがネットにあった。そして武豊騎手、経緯は不明ながらパンフレットに推薦コメントを出している。「夢と情熱を持って挑んでいけば、いいことがたまには起きる--」。必ず…ではなく、たまには…という表現が、彼らしいウイットで、さすがと思った。永遠の天才。つい先日、4400勝を達成した。

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 「谷口ジローと清瀬展」。毎日新聞コラムを読んで気になり、初めての清瀬市に足を運んだ。谷口ジロー氏。最も知られるのはやはり「孤独のグルメ」で、実際記者もそこから入り、しかしいくつか読みあさるうち、画風、絵柄、物語…さまざま魅了され、心酔という気持ちになった。「歩く人」「センセイの鞄」「冬の運動会」「犬を飼う・そして猫を飼う」「神々の山峰」。2017年、69歳没…は残念としか言葉がない。「清瀬郷土資料館」は、西武・清瀬駅からバス10分、やや行きにくい場所にあり、それでも想像以上の見学者、とりわけ若いカップルが多い気がした。

 自身原作ではないけれど、関川夏央氏と組んだ「坊ちゃんの時代」は素晴らしかった。5部構成の大作で、標題「坊ちゃんの時代」から、「秋の舞姫」「かの碧空に」「明治流星雨」「不機嫌亭漱石」と展開する。あらためて検索すると「漫画界の金字塔」…など読者絶賛の言葉が多くあった。その登場人物は、前半、夏目漱石、森鴎外、二葉亭四迷、石川啄木、樋口一葉、小泉八雲(ラフカディオハーン)。後半は大逆事件(幸徳秋水・菅野スガなど)に物語が移り、まさしく全篇スペクタクル。「凛冽たり近代、なお精彩あり明治人」(関川夏央・あとがき)--も興味深い。今回清瀬展、展示物自体は正直貧弱、目新しいものもなかったが、出口ミュージアムで探していた「欅の木」(現在品薄?)を見つけ購入。一転、来てよかった…という気分になった。

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 ただ昨今、散歩の憂鬱…そう感じてしまうときもしばしばある。まず本人的には歩く速度が遅くなったこと。ごくふつう世間並みに歩いているつもりで、後ろからどんどん抜かれる。万歩計(近年・常時携帯)時速4・5キロは水準でも、現実に駅コンコースなどでどんどん抜かれる。周囲のエネルギーについていけない、そういうことか。で、抜かれた瞬間、相手はどんな人たちなのか、やはり気になる。女子高校生ならひとまず納得。しかし年配女性だったりすると少し落ち込む。

 あと、混雑の街…が極端に苦手になった。すれ違う人の動きに対応できない。記者もともと運動神経、反射神経には自信がないが、ただ昨今の渋谷、新宿など街並みには、危険…まで感じてしまう。そしていま当たり前になった歩きスマホ。この人たちはおおむね下を向き周囲を見ず、ひたすら前へずんずん進んでくる。記者感覚では歩きタバコと同レベル。腹が立つというより、ごく単純に異様さを感じる。彼らの言い分。「ゲームをキリのいいところまで続けたい」 まあこれはわからないでもないが、「歩くのが退屈だから…」には驚いた。高年散歩者にはそれこそ理解不能。「歩きスマホ専用レーン設置」という声があった。ナイスアイディア。賛成である。

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吉川 彰彦
Akihiko Yoshikawa
日刊競馬南関東公営版解説者
スカパー!・品川CATV大井競馬解説者
ラジオたんぱ解説者
 常に「夢のある予想」を心がけている、しかしそれでいてキッチリと的中させるところはさすが。血統、成績はもちろんだが、まず「レースを見ること」が大事だと言う。その言葉通り、レースがある限り毎日競馬場へ通う情熱。それが吉川の予想の原点なのである。