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2021.03.21更新

「英雄 あるいは名優」

 訃報があった。アブクマポーロ。2月21日 心不全 北海道早来・吉田牧場 享年29歳。1999年引退から種牡馬、乗馬を経て、功労馬として繋養――。おそらくいい人生(馬生)だったのだろうといま思う。一昨年だったか、牧場でのんびり草を食む、YouTubeのシーン(見学ファンの方・投稿)を見て、ああそうなんだ…ホッとした記憶がある。いずれにせよその競走生活は、完璧、濃密…としか言葉がない。仮に日本地方競馬近代史を50〜60年、そう区切るとすれば、最強10指、いや5指に、間違いなく入ってくる。

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 実績、偉業をおさらいする。32戦23勝、うち重賞14勝(GI4勝)。デビューが3歳夏と遅れ、少し足踏みはあったものの、5歳春に船橋・出川克己厩舎移籍、一挙に頭角を現わした。いきなり大井記念(当時2600メートル)を6馬身差圧勝、続く帝王賞、コンサートボーイの鼻差2着。以後、またたく間に頂点へ昇りつめる。とりわけ翌1998年の快進撃はすさまじかった。交流G=7戦6勝、その年、日本ダービー馬スペシャルウィークを凌ぐ賞金王…といえば説得力があるだろう。2年連続NAR年度代表馬。タフなステップを踏み、なおかつ絶対王者の地位を長く保った。

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 もっともアブクマポーロ。記者個人の思い入れは、実績・記録というより、勝ちっぷりの鮮やかさ、見事さ、美しさに集約される。道中の走りはいつも悠々としなやかで、じたばたすることがいっさいなかった。そして直線GOサインが出るや、それこそ放たれた矢のように伸びてくる。基本的に追い込み馬だから、観戦者は常にはらはらドキドキ、しかしそのぶん、最後に味わう爽快感、満足感はそれこそ倍返しの至上となった。勝利という結末はわかっているのにスリリング、そんな感じか。記者ライヴ観戦、双眼鏡を持つ手が震え、そののち深いため息が出たことが何度もあった。

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 駿馬を讃える、贈る言葉…は、古くからさまざまある。たとえばシンボリルドルフのポスターには、当時「勝ち方をきわめたい」というコピーがついた。トウショウボーイは「天馬空を行く」、キングカメハメハは「大王降臨」。正直あまり感心しないが、ディープインパクトには「1着至上主義」。さてポーロはどうか。「いい映画を締めくくる名優…」そう表現した友人がいた。見せるレース、魅せるレース。思えば同馬は「勝てばいい」とか「力で圧倒」とか、そんな競馬はおそらく生涯していない。同時にそれは、石崎隆之騎手の技術と流儀でもあっただろう。強いものをより強く…のパフォーマンス。あえて真骨頂というなら1998年かしわ記念か。VTR再見、あらためてため息が出た。

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 悔しい思いが一つある。2歳下、当時好敵手とされたメイセイオペラが最高勲章(フェブラリーS=GI制覇)を持っているのに、ポーロにはそれがないこと。現実に両馬対戦をふり返れば、ポーロ3勝1敗。川崎記念、帝王賞、東京大賞典…すべて並ぶところない差し切りで、ごく客観的に強さのレベルが違っていた。ただしかし、いわく世間の評価はメイセイオペラ=フェブラリーS勝利、イコール地方馬最強に落ち着き、それが永遠に語られていくこと。もっともアブクマポーロ、対メイセイオペラ1敗は、相手地元の盛岡・南部杯。このレース、ポーロは珍しく反応の鈍い追走で、結果相手の独走を許してしまった。ホームの利、アウェーの厳しさ。「あのときはなんだろう。周囲に緑が多いんで、放牧地と勘違いしたのかな…」。出川克己師、微笑しながらのお話は、いまもって感慨深い。

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 2月21日…が命日だったのは、単に偶然、不思議というより、どこか運命的にも思えてしまう。その日は東京競馬場「フェブラリーステークス」。アブクマポーロは、結局このGIに縁がなかった。全盛期2年とも、同じ週に川崎記念があったこと。唯一の弱点、繊細で神経質…を、陣営が考慮したこと。で、1999年メイセイオペラ出走、その戦略、決断がズバリと当たる。一方ポーロはその川崎記念、いつも通り落ち着き払った追走からお約束の直線一気、ほんのひと気合でキョウトシチ―に2馬身1/2差をつけた。両レース、どちらのレベルが高かったか。「拍手大歓声、沸きおこる ごらんくださいこの脚、この脚強いぞ アブクマポーロ先頭!」。目をつぶると、及川サトル氏の名実況が、まだ耳の奥底から聞こえてきたりする。

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 競馬とは、空想、妄想を語るときが絶対至福…あらためてそう思う。アブクマポーロ、そのベストパフォーマンスを1998年、6歳時「かしわ記念」と書いた。2着パーソナリティワン、3着タイキシャーロック、4着バトルライン。直線それこそひと気合で6馬身差独走劇、船橋千六1分35秒4、従来レコードを一挙に2.1秒詰めている。以後これに迫った記録は、翌年エスポワールシチー=1分35秒9。そしてエスポワールは以後、フェブラリーステークス、南部杯も楽々と制覇した。
   2月21日。確かにカフェファラオの勝利は鮮やかだった。完璧な好位差し、東京千六1分34秒4は歴代2位。ただしかし記者の思いは、そこで「タイムトンネル」の領域にどうしても入ってしまう。1999年以降フェブラリーS勝者、歴代ダート王と比較すると、カフェファラオはまだまだあやしく頼りない。対してアブクマポーロ、もしも…のシナリオを想定した。「逃げるコパノリッキー、モーニン2番手、さあ直線あと1ハロン、カネヒキリが迫ってきた。その外からアブクマポーロ。抜け出したアブクマポーロ! いやさらに外からアグネスデジタル――」。
 アブクマポーロ。2月20日まできわめて闊達。しかし翌日崩れるように倒れたのだという。死亡ではなく、逝去という言葉がやはり似合う。合掌。

吉川 彰彦
Akihiko Yoshikawa

日刊競馬南関東公営版解説者

スカパー!・品川CATV大井競馬解説者、ラジオたんぱ解説者
 常に「夢のある予想」を心がけている、しかしそれでいてキッチリと的中させるところはさすが。血統、成績はもちろんだが、まず「レースを見ること」が大事だと言う。その言葉通り、レースがある限り毎日競馬場へ通う情熱。それが吉川の予想の原点なのである。




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