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2004.12.07更新

「勝負師たち」

 井口民樹著「瀬戸際の勝負師」(現代書館)を読んだ。面白かった。いや面白いというより、身につまされるようなルポルタージュで、とりわけ中〜高年ファン(筆者含め)には、グッとくる一冊と、しみじみ思った。黄昏どきを迎えた勝負師の葛藤というもの。「騎手たちはそのときをどう生きたか」、そうサブタイトルがついている。

 ベテラン騎手4人。その生き方と心象風景が、掘り下げたインタビュー、数多いエピソードを軸に綿々と綴られていく。1000勝に執念を燃やし、しかし事故でやむなくステッキを置いた大崎昭一。所属調教師の死去、一転リストラ対象になりながら、その人柄と周囲の友情でオークス、ダービーを制した小島貞博。他に清水英次、村本善之。4編を読み終えると、ため息が出た。しかしこれは、そうかそうかなるほどね…、深く、満足のいくため息だった(と思いたい)。

 しばしば思う。ジョッキーとは、何とも矛盾に満ちた、やるせない職業であると。プロのアスリート、その究極に位置しながら、自分の力だけではどうにもならない、そういう部分が多すぎること。例えばここに2人の騎手がいたとする。1人は年間50勝、1人は5勝。数字からはむろん比較にならないが、仮に次の年、2人に同じ騎乗機会、チャンスを与えたとすればおそらく結果は大きく違う。せいぜいダブルスコア。とすると、この極端な明暗は、実力(技術)によるものだけではたぶんない。

 営業努力。晩年の大崎昭一は、人気騎手の集まらない裏開催にあえて出向き、水曜、木曜、電話の前を離れなかったという。自ら調教した馬の様子、想定メンバーなど、逐一調教師に報告する。ダービー2勝、天皇賞2勝、誰もが認める一流である。それでも現実にそうしないと騎乗機会が巡ってこない。栄光と挫折、夢と失意。それがすべて隣り合せ。同じギャンブルスポーツでも、競輪などはおおむね実力=結果(評価)だから、負けたら負けたであきらめもつく。ジョッキーはそうではない。基本的に他力本願。頼まれなければ出て行けない。「腕が落ちた」、本人の自覚がそうならともかく、単に年齢的な不遇と思えば、それは出口のない憂鬱になる。

 とはいえベテランにチャンスが減ること。それはある意味仕方ない。仮に記者がオーナー、あるいは調教師だとすれば、若くて元気のある、将来性の高い騎手に、やはり馬を任せたいと思うだろう。競争社会の縮図のような世界において、新陳代謝は必要かつ当然でもある。だから森秀行調教師が、前身の戸山厩舎、同胞であったはずの小島、小谷内をあえて使わず、(勝つために)武豊、横山典を起用したことも、ごく冷静には理解できる。よくない、間違っているとはむろん言えない。どうなのだろう。なにやら複雑。強いていえばこの心情は“せつない”という言葉になるか。

 おせっかいな「感想文」は良書にとってはなはだ迷惑。で、印象深いコメントを一つだけ転記させていただく。トウメイ、テンメイの母子に乗り、しかし落馬事故で現在まだリハビリ中の清水英次。「乗り応えがあるのは追い込みやね。直線の長い東京、京都の外回り。4コーナーからファンが歓声をあげてるとこを、目一杯追ってるときは、ほんまに感動します。その感動があるから、なかなか騎手はやめられんのですよ」。リハビリ中とは、騎手復帰に向けてではなく、日常生活へのリハビリである。自宅で歩行器を使っての運動、夫人との散歩。事故から10年、容易に状況は好転しない。

 著者・井口民樹氏は、その清水英次騎手の章を、「快男児の終わりなき闘い」とタイトルした。快男児。ワープロ入力に苦労したから、あるいはもう死語なのかもしれない。快男児が現われにくく、生きにくくなった今の時代…そんなこともふと思った。ともあれご一読を。

吉川 彰彦
Akihiko Yoshikawa

日刊競馬南関東公営版解説者

スカパー!・品川CATV大井競馬解説者、ラジオたんぱ解説者
 常に「夢のある予想」を心がけている、しかしそれでいてキッチリと的中させるところはさすが。血統、成績はもちろんだが、まず「レースを見ること」が大事だと言う。その言葉通り、レースがある限り毎日競馬場へ通う情熱。それが吉川の予想の原点なのである。




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