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 現役時代は14戦12勝で、GTタイトルは7つ。この成績だけでもすごいが、「競馬」の枠にとどまらないスターホースであった。

 三冠を達成した菊花賞の当日夜は各局のスポーツニュースで一番に取り上げられ、その年の暮れには新語・流行語大賞にノミネートされた。翌年秋の凱旋門賞挑戦時には天下のNHKが生中継でそのレースの模様を報じた。

 競馬の枠にとらわれない人気といえば、80〜90年代ではオグリキャップ、そして古くは70年代のハイセイコー。この2頭には地方競馬から中央競馬に移籍して活躍したという共通点があるが、ディープインパクトは父サンデーサイレンス、兄がGU勝ちのブラックタイドという良血。これらとは人気の博し方が違ったのだろう。

 2歳の暮れデビューから圧勝の連続。遅れぎみのスタートから、ひと捲りで勝負を決めるレーススタンスも豪快で、小柄ながら逞しい走りっぷり。手綱を取った武豊騎手とのコンビも、実に絵になっていた。速くてカッコいい、サラブレッドのあるべき姿といっても過言ではなかったと思う。

 クラシック第一関門の皐月賞はスタートで落馬寸前の躓きがありながら、2着に2馬身半差の完勝。続く「競馬の祭典」日本ダービーは大外を颯爽と駆け抜け、レコードタイで2着に5馬身。歴史に残る名馬の誕生をファンは祝福した。

 2005年10月23日の菊花賞。三冠達成への最終関門で単勝支持率は79.03%。単勝オッズは1.0倍の元返し。序盤から行きたがるディープを、人々は固唾を飲んで見守った。直線に向いても先頭を走るアドマイヤジャパンとはかなりの距離があったが、最後はいつも通り弾けた。史上2頭目の無敗の三冠ホースの誕生。こんな強い馬はもう現れないかもしれない。当時、高校2年生だった筆者の心に刻まれた。




 筆者がリアルタイムで見たのは90年代の後半から。近年ではオルフェーヴル、2000年前後まで遡ってテイエムオペラオー、スペシャルウィーク、グラスワンダーなども印象に残っているが、このあたりにはちょっと「モロさ」もあった。

 クラシックディスタンスで隙のない成績という点ではエルコンドルパサーもそうだが、ディープインパクトのような派手さはなかったと思う。タイキシャトルは明らかに土俵が違うし、個人的な好みのクロフネも衝撃はダート。いろいろ連ねてみたが、何より1番は「人気」だったのだろう。これらはディープほど、マスコミ媒体で取り上げられることもなかったと記憶しているし、盛り上がりもそこまでではなかったと思う。 

 とはいえ、長丁場の3200mを驚異的な上がり33.5でまとめた春の天皇賞を思い出すと、マイルいやスプリント戦でも…。道悪をものともせず「飛んだ」宝塚記念を見ると、ダートでも…。フィールドを問わず、変わらずに強かったのかもしれない。

 輝かしい競走生活を送ったディープインパクトにも2度の敗戦があった。最初は2005年12月25日の有馬記念。このレースに至るまで、クラシック三冠を含む7戦7勝。初の古馬との対戦でも断然の支持を集めたが、ハーツクライに及ばずの2着。その前の菊花賞が最大目標で、状態がピークではなかったのかもしれない。それでも、この馬の普段通りの競馬をして負けたのは、違う意味で衝撃だった。競馬に絶対がないことを、改めて知らしめる形にもなってしまった。

 もう1つは4歳秋の凱旋門賞。有力馬の回避もあり、8頭立ての少頭数。ペースメーカーも不在とあって、好スタートを切ったディープインパクトは今までにない前めのポジション。そして、直線は意外なほど弾けなかった。後続馬に交わされたのもこれが生涯で1度の経験。レース後は禁止薬物が検出され、失格という汚点も付いた。今までの後方一気の競馬をしていれば…という思いもなくはないが、日本最強馬が敵わなかった事実は重い。その時はそう感じてしまった。

 凱旋門賞から帰国後はジャパンC、有馬記念を連勝。なんともいえないモヤモヤを振り切るかのような快走だった。国内で走ったレースはすべて最速の上がり、12勝のうち11勝が2馬身以上つける完勝。ラストランまでディープインパクト。「英雄」と呼ばれるにふさわしい成績だった。

 引退後は社台スタリオンステーションで種牡馬入り。初年度(2010年)からJRAの2歳リーディングサイアーに輝き、期待を裏切らない活躍を見せている。

 今週末に行われる凱旋門賞には3頭の日本馬が出走を予定。この中には産駒のハープスターの名前もある。前哨戦として臨んだ札幌記念はゴールドシップを抑えての快勝。3歳牝馬で斤量設定も有利なだけに、チャンスも十分ありそうだ。

 英雄の第2章はまだまだ始まったばかり。とはいえ、ディープインパクトみたいに華と強さを兼ね備えて、そして一大ブームを巻き起こす馬が現れるのは、なかなか難しいことかな? 




〔小松 真也〕




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