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 現役のジェンティルドンナ。最近10年ではブエナビスタ、ダイワスカーレット、ウオッカ。男勝りの女傑は珍しくなくなった。そもそも、前記4頭を牡馬混合のGIで買う際、牝馬かどうかをあまり意識しなかったのではないか。「強い馬が来るのか来ないのか」。ウオッカはダービーをレコードで制して、ダイワスカーレットは1番人気の有馬記念で後続を完封する逃げ切り勝ちを収めている。

 かつて牡馬の壁は厚かった。2007年(平成19年)以前、年度代表馬になった牝馬は2頭しかいない。昭和では唯一、46年の賞金王に輝いたトウメイ(1971年)。残る1頭は平成9年、1997年のエアグルーヴである。

 エアグルーヴは現役時代、しばしば史上最強牝馬と呼ばれた。筆者も異論はなかった。2着に敗れた新馬戦でさえ、明らかに大物の相。父トニービン、母ダイナカール。デビュー時から注目を集めた超良血馬だった。

 しかし、実はエアグルーヴ、牡馬相手にGIを勝ったのはバブルガムフェロー、ジェニュインを降した天皇賞(秋)だけ。全戦歴を振り返ってみると、19戦して9勝、うち重賞7勝。3歳春にオークスを制していてGIは〔2.3.3.2〕、GII〔3.1.0.0〕、GIII〔2.0.0.0〕。格下相手に強さを見せつける一方、GIでは能力の高さを示しながら惜敗というケースが多かった。GIでの人気は〔3.5.2.0〕。ファンの期待以上に走ったとも言えない。

 とはいえ、GIで着外に終わった2回は10着の秋華賞がフラッシュ撮影の影響とレース中骨折、ラストラン5着の有馬記念が荒れ馬場で落鉄と明確な敗因があり、安定感は群を抜いていた。“21世紀4女傑”の出現により、やや印象が薄くなったものの、その地位はいささかも揺るがない。繁殖牝馬としてもアドマイヤグルーヴ、フォゲッタブル、ルーラーシップらを送り出していて、あらゆる面で歴史的名牝だ。

 そんなエアグルーヴが連覇している重賞が札幌記念である。ご存知の通り、超一流の実績馬が7〜8月に出走することは少ない。別定重量にせよハンデにせよ、GIIIでは酷量を背負わされる。暑い季節は休養に充てて、秋のGIシーズンに備えるのが常道だろう。

 この時季、唯一のGIIが札幌記念(現在は定量戦)。勝ち馬の名前を見ると、確かにGI級が多く、他の夏重賞と一線を画している。ただし、アドマイヤムーン、トーセンジョーダン、アーネストリーはGIを勝つ前。テイエムオーシャン、ヘヴンリーロマンス、フサイチパンドラは牝馬で、54〜56キロ。3頭とも1番人気ではなかった。酷量で人気に応えたGI馬となると、1999年(平成11年)のセイウンスカイ(59キロ)、2004年(平成16年)のファインモーション(牝馬、57キロ)あたり。

 エアグルーヴの札幌記念。1年目は年度代表馬に選ばれた1997年で、55キロで単勝180円。2着は同世代牝馬のエリモシック(後のエリザベス女王杯馬)で、3着はアロハドリーム。そして、翌年。何と58キロ、さらに人気を集めて単勝130円。GIII級のサイレントハンター、アラバンサが2、3番人気で2、3着だから、相手は弱かった。しかし、格が違うにしても……である。


 夏場の重賞、牝馬の58キロ。1998年(平成10年)、管理の伊藤雄二師は年間最高勝率でJRA賞を受賞しているが、ためらいそうな状況でこういうレースを使って難なく勝つあたりに見識の高さが出ている。もちろん、エアグルーヴ自身が長く休まず使い込まずというタイプで、背負っても問題ない実績があったことは見逃せない。リフレッシュ休養は最長で5ヵ月だが、間隔2ヵ月〜3ヵ月半が6回もあり、1シーズンで3走以上したことはない。斤量に関しては、57キロの大阪杯で56キロのメジロドーベルに勝っていて、同じく57キロの鳴尾記念は休み明けで完調手前ながら2着を確保。

 ちなみに4女傑のうち、ジェンティルドンナ、ブエナビスタ、ダイワスカーレットは57キロ以上で走ったことがない。ウオッカは3回あって、57キロで2着2回、57.5キロで5着。また、4頭ともセオリー通り、ほとんど夏場に使われていないが、ブエナビスタは3歳時、52キロで札幌記念(単勝オッズ1.5倍)に登場して2着に敗れている。

 美しい女帝と名付けられたエアグルーヴはGII昇格後、唯一の札幌記念連覇馬。そして自らも2回勝った重賞は他にない。付け加えると、別定戦ではなくなった現在、定量規定は3歳54キロ・4歳以上57キロ・牝馬2キロ減。今後、58キロでの出走は、牡馬も含めて見ることができないかもしれない。

 昨夏は改装で休止、2年ぶりとなる新装競馬場。夏競馬メインのGIIは札幌芝2000mで行われる。8月24日、発走は15時25分である。







〔田所直喜〕




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