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 6連勝で迎えた秋の大一番。単勝オッズ1.2倍の大本命馬が、通常では考えらない大逃げを打っている。1000m通過は57秒4。それでも、武豊騎手はもちろん、見守る誰もが暴走とは思っていない。これが史上最速のスピード馬……。

 衝撃の天皇賞(秋)は1998年(平成10年)11月1日。その2走前、7月12日に阪神競馬場で行われた宝塚記念が、サイレンススズカにとって唯一のGTタイトルとなった。

 ステイゴールド、エアグルーヴ、メジロドーベル、シルクジャスティス、メジロブライト。ゴール前で予想以上に詰め寄られたとはいえ、錚々たるメンバーに完勝した。しかし、距離が少し長かったことに加えて、鞍上は代打の南井克巳騎手。好騎乗だったが、どうもしっくり来ない。そして何より、本当はもっと強くて“速い”はず。宝塚記念のサイレンススズカ。メモリアルに一番ふさわしい馬かとか言えば、個人的には否である。



 上半期を締めくくるGT。ファン投票が実施されるのは宝塚記念と有馬記念だけで、他のGTと一線を画している。ちなみにこの年、サイレンススズカは6位。1位はエアクルーヴだった。

 最近10年でファン投票1位馬は7頭出走して〔2.3.2.0〕。出てくれば3着以内に入っている。3位以内の馬は30頭中21頭出走だから、22頭の有馬記念とほぼ互角。宝塚記念を春シーズン日本一決定戦と呼ぶのは違和感があるが、ファン投票との関連では「東の有馬、西の宝塚」で遜色はない。

 コースや距離は別にして、天皇賞(春)との大きな違いは3歳馬が出走できること。2003年(平成15年)はダービー馬のネオユニヴァースが4着(2番人気)。ダービー1、2着馬がそろって登場した2007年(平成19年)は、何と3歳牝馬のウオッカが1番人気に祭り上げられた。厳しい展開に泣いて8着に終わったものの、51キロのダービー馬は話題を提供してくれた。

 一方、GTにしては盛り上がりを欠く年も少なくない。ここを目標に狙い定めて勝つ超一流の大物はいない。一昨年のオルフェーヴル、昨年のゴールドシップは、天皇賞で不覚を取った後の参戦。宝塚記念の賞金(1着は1億3200万円)が高くなかったら……出走しなかったかもしれない。天皇賞のレベルが今ひとつの年も増えて、宝塚記念と結びつかないことが多々。少なくとも、天皇賞(秋)とジャパンカップのような関係ではない。

 時期の影響も感じる。現在は番組上も夏競馬になった宝塚記念に、年末の有馬記念のようなムードを求めるのは酷。例年、売り上げは倍ぐらい違う。

 ドラマとしては2001年(平成13年)、テイエムオペラオー相手にすべて2着の5連敗の後、初めて土をつけたメイショウドトウの初GT制覇が上位に来る。2006年(平成18年)、ディープインパクト(単勝110円)の2着と3着は、ナリタセンチュリー(10番人気)とバランスオブゲーム(9番人気)……。馬券の泣き笑いはあっても、印象が薄い。大レース特有の高揚感が乏しい。

 メモリアルホース“投票1位”でも、サイレンススズカの代表作が宝塚記念と思っている人は少ないと想像する。永遠の疾風に見合うレースは、旧中京競馬場でレコード圧勝した金鯱賞か、エルコンドルパサーを完封した毎日王冠か、いや“永遠”と称する以上、冒頭の天皇賞(秋)だ。3コーナーすぎ、悪夢の競走中止。叶わぬと分かっていても、あの走りの続きを今でも見たい。いったい、どこまで速かったのか。



 伝説の最速、再び。逃げ一本でスピード日本一の中距離馬。近年ではダイワスカーレットがそれに近いが、やはり違う。問答無用の正攻法、通過順も着順も全部1。今後、そんな馬が現れて宝塚記念を勝つことがあれば、改めて泉下のサイレンススズカを偲ぶことになるだろう。




〔田所直喜〕




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