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秋華賞・ゴール前 題字
1996年10月20日
第1回秋華賞
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馬柱 ◎新設GI◎

 1996年(平成8年)、中央競馬の戦線に大きな変化があった。

 まず、高松宮杯(現・高松宮記念)の昇格。長い間、芝2000Mのとして親しまれてきたが、この年から芝1200Mのに生まれ変わった。のダービー・トライアル(芝2000M)だったNHK杯がなくなり、4歳(現表記・3歳)限定の・NHKマイルCが誕生。そして、秋の牝馬路線にも大革命。4歳戦だったエリザベス女王杯が古馬に開放され、距離も芝2200Mに変更。と同時に、今回取り上げる4歳・秋華賞が創設されている。

 京都内回りの芝2000M。「前残りあり、乱戦あり」が定評のコースで、「にふさわしい舞台か?」という声があったのを覚えている。加えて、実施時期。4回京都の3週目(現在は2週目)は、おおよそ10月の半ば。それまでのエリザベス女王杯より3週も繰り上がり、春の実績馬にとってはローテーションの選択の幅が狭まった。通常のトライアルを使おうとすれば、当時は阪神・ローズSと中山・クイーンS(北海道重賞になる前)しかない。仕上がり切らずに回避する馬が多くなったり、あとに控える対古馬の頂上決戦・エリザベス女王杯の前に“ひと叩き”の感覚で使うクラシックホースまで出るのではないか…。

 つまり、「の重みを欠くレースになるのでは」という危惧があった。初めての試みで、当事者の各陣営も我ら観戦側も手探りの状態。期待と懸念の交錯する中で、第1回秋華賞は行なわれた。

'96秋華賞ゴール前 ◎エアグルーヴ敗れる◎

 幸い、役者はそろった。桜花賞馬でオークス2着のファイトガリバーこそ欠いたものの、オークス馬・エアグルーヴが参戦。大器の呼び声が高く、1番人気で単勝170円と期待を集めた。春の宝塚記念でマヤノトップガンを相手に0秒3差、トライアルのローズSを快勝したヒシナタリーが2番人気。桜花賞2着・イブキパーシヴ(4番人気)、オークス4着・ロゼカラー(7番人気)。オークスで2番人気だったエリモシックも前哨戦を制して復活。3番人気に支持された。

 レースはシルクスプレンダーの先導で始まり、3F35秒2、前半5F58秒7。これは速い。3コーナーではマークリマニッシュが交わして先頭に立ったが、どうやら差し馬有利…と思って中団を進むエアグルーヴを探すと、何と武豊の手が動いている。

 勝ったのは好位をキープしていた松永幹夫のファビラスラフインだった。4コーナーでは2番手まで上がり、その勢いのまま抜け出して押し切った。2着・エリモシック(4コーナー12番手)に1馬身1/2差、3着は道中後方から3コーナーすぎにまくったロゼカラー。勝ちタイム1分58秒1はレコードに0秒1差。恵まれた勝利ではなく、正攻法の堂々たる内容だから文句のつけようがない。

'94スプリンターズS口取り ◎強かった初代勝ち馬◎

 ファビラスラフインは、この年の2月デビュー。無傷の連勝でニュージーランドT4歳S()に挑み、1番人気に応えてエイシンガイモン以下に快勝している。4戦目のNHKマイルCでも1番人気。しかし、ここではハイペースに巻き込まれ、勝ったタイキフォーチュンから遅れること2秒1、18頭立ての14着に終わった。スピードは非凡だが、まだ完成途上。そんな印象が残るレースぶりだった。

 とはいえ、5戦目となった秋華賞でも惨敗後・休み明けながら5番人気。能力評価は高く、実際、それが間違いではないことを示す制覇劇だった。

 ただ、気になることがいくつかあった。大本命・エアグルーヴの不可解な敗戦。「パドックでフラッシュをたかれて…」。その程度のことで負ける馬だったのか? 後日、レース中の骨折が判明したことにより、やっと納得できたが、では、そんなエアグルーヴに勝っただけのファビラスラフインは? 好時計勝ちとはいえ、紛れが生じやすい京都内回り2000M。力勝負になって、初めて真価が分かるのではないか。

 ファビラスラフインが次走に選んだのは、エリザベス女王杯ではなく、牡馬相手、しかも世界の強豪が集まるジャパンカップだった。1番人気は凱旋門賞馬・エリシオ、2番人気は秋の天皇賞馬・バブルガムフェロー、3番人気がキングショージを勝ったペンタイアで、4番人気にブリーダーズCターフ2着のシングスピールという豪華な布陣。ファビラスラフインは7番人気に留まり、筆者は「この距離で、底力比べでは…。第一、久々好走の反動の心配さえある。単勝が20倍を切っているのは売れすぎ」と考えていた。

 恐れ入った。シングスピールとハナ差の接戦。それも鞍上・天才デットーリと追い比べの末の2着だから、もう何も言うことはなくなった。秋華賞の初代勝ち馬は、史上に残る名牝であった。

 その後、12月の有馬記念はピークを越えて10着、計画されていた海外遠征も果たせず引退したが、それによってファビラスラフインと第1回秋華賞の価値はいささかも下がるものではない。

◎ライバルも奮戦◎

 エアグルーヴは翌1997年(平成9年)、天皇賞・秋でバブルガムフェローを下して優勝、ジャパンカップではピルサドスキーとクビ差の2着。全盛期を過ぎた1998年(平成10年)もジャパンカップでエルコンドルパサーの2着と健闘した。

 エリモシックは97年のエリザベス女王杯優勝。凡走することも多かった馬だが、ここ一番で1世代上のオークス馬・ダンスパートナーを破り、勝負強さを見せつけた。

 結局期待ほど大成できなかったヒシナタリーも、96年暮れの阪神牝馬特別(、現・阪神牝馬S)では、やはり年上の馬を撃破している。

 レベルの低い年もあって、“G1.5”などと言われてしまうこともある秋華賞。しかし、ファビラスラフインとエアグルーヴという何年かに1頭の女傑を同時に得て、その第1回は、新設の門出を祝うのにふさわしいメンバーだった。

[田所 直喜]

☆第1回秋華賞 優勝馬☆
ファビラスラフイン 1993.4.13生 ・芦毛
Fabulous Dancer
1976 鹿毛
Northern Dacner
1961 鹿毛
Nearctic
Natalma
Last of the Line
1967 黒鹿毛
The Axe
Bryonia
Mercalle
1986 芦毛
Kaldoun
1975 芦毛
Caro
Katana
Eole des Mers
1975 黒鹿毛
Carvin
Deesse des Mers
 
 



馬主………吉田 和子
生産牧場…仏・Raymond le Poder
調教師……栗東・長浜 博之

通算成績 7戦4勝[4.1.0.2]
主な勝ち鞍 秋華賞(1996年)

受賞歴 JRA賞
最優秀4歳牝馬(1996年)

全成績はこちら


1996年10月20日
第1回秋華賞(G I) 京都・芝2000m(内)・良
[7]15ファビラスラフイン牝455松永 幹夫1.58.1
[6]11エリモシック牝455河内 洋1.1/2
[5]10ロゼカラー牝455藤田 伸二1/2
 上がり 47秒8−36秒2
単勝 1880円  複勝 690円 390円 590円
枠番連複 6−7 2250円 馬番連勝 11−15 15500円  




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